まだ素朴だった頃のハロウィン
昔々私はドイツに住んでいた。
その日はお休みだったのだろうか、午後のまだ明るい時間に玄関のブザーが鳴った。
開けてみるとドイツ人の男の子が3人立っていた。小学校の高学年くらいだろうか、いきなり外国人の私が出てきて驚いた様子だったが何も喋らず「せ〜の」といった感じで何やら歌い出した。
訳が分からず私は彼らの歌を聴きながら必死で事態を飲み込もうとした。きっと怪訝な顔をしていたに違いない。彼らは怖かっただろう。
数日前にたまたま読んだドイツの日本人クラブの会報を思い出した。
『何とかって言うお祭りで、歌う子どもにお菓子を上げるヤツだ』と思い出した。
彼らが歌い終えると「ちょっと待って」と私は日本のお菓子を持って来た。あられの様なものの小袋だったと思う。日本から取り寄せたのではなくて現地の日本スーパーで買ったものだ。
『こんなんで喜ぶか?』と思ったがどうせなら日本のお菓子が良いと思ってそれしかなかったのだ。
かっぱえびせんを食べさせてやりたかった。
「日本のだよ」と言って渡すと3人ともホッとして嬉しそうだった。
「日本のお菓子は美味しいんだ」と1人の子が言った。
「食べた事があるの?」
と私が聞くと
「ない」
と答えてみんなで笑った。
「ありがとう」
「ここの人は親切かい?」
と隣のドアを指差して聞いてきた。
「親切なドイツ人のおばあちゃんだよ」
と言うと
「ありがとう、バイバイ」
と言ってくれた。
玄関を閉めて少しすると外から彼らの歌声が聴こえてきた。
まだあの頃は日本でもドイツでもハロウィンは今ほど知られてなくて商業的ではなかった。
とても暖かい気持ちにさせてくれた彼らに感謝だ。
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