写真は当時の僕です
20代の頃、年末年始を北アフリカのモロッコで過ごした事があった。
写真の様にレンタカーを借りてサハラ砂漠や大西洋岸の街を旅して周った。
海沿いのリゾート地にはヨーロッパの観光客が沢山いた。
一人旅の私は観光客の水着姿を眺めたり、海を眺めたりしてボーっとして過ごした。
ふと1人の物乞い女性に目が行った。
20代だった私と同世代に見えた。薄汚れたワンピースで片膝を立てて座っていた。
髪はボサボサで長く、浅黒い肌で少しシワがよった様な顔で私と同様に観光客と海を眺めていた。
目の前には空き缶を置いて誰かが小銭を入れてくれるのを待っている。
金髪でビキニ姿のヨーロッパ人観光客女性よりもその物乞い女性の方がセクシーに見えた。
ヨーロッパの街では物乞いは珍しくはなかった。
多くは年配の人だったが若い人もいたので、この女性に興味を持ったのは年末のモロッコだったからかも知れない。
大阪城公園には沢山のホームレスがいたが物乞いではなかった。
ヨーロッパで物乞いを見た時は多少のショックだった。
目の前にいる彼女に小銭を与える勇気はなかった。
時々チラッと目を向けるしか出来なかった。
突然彼女に話しかけた。
片言の英語で道を尋ねた。
何故そうしたのかはわからない。
彼女は無視をするか、現地の言葉でののしるかのどちらかだろうと思いながら話しかけた。
ところが彼女はやはり片言の英語で丁寧に道を教えてくれた。
その事に私はショックを受けた。
上から目線で彼女を見ていた自分が恥ずかしかった。
当時の日本は裕福な国でヨーロッパでも一目おかれる事が多かった。なかでも自分は企業の駐在員としてドイツで暮らしていた。
貧しいモロッコのましてや物乞い女性を自分よりもずっと下の人間の如く好奇の目で見ていた。
モロッコはフランスの植民地だったのでフランス語を話す人は多いが、英語を話すなんて驚いた。
しかもちょっとエッチな考えで彼女を見ていた自分はなんと卑しいのだろうと憂鬱になった。
「メルシーボクー、オールボワール」
と自分が知るほぼ全てのフランス語で「ありがとうございます。さようなら」
と言うと
「バーイ」と答えてくれた。
よほど彼女の目の前の空き缶に小銭を入れようかと思ったがその事がさらに自分を凹ませると思って何もせずに立ち去った。
少し歩いてから振り返ると彼女はそれまでと同じ様に海岸に戯れるヨーロッパ人観光客と海を眺めていた。
「カッコええな〜」と思いながら海岸を去った。