小学4年生の頃、市内のショッピングセンターで古本市があった。
カゴの中に雑然と並んでいる本を手に取って眺めていた。
ボロボロの表紙の「日本の幽霊」を自然に取っていた。
色褪せた紙に日本各地の幽霊話しが載っていてワクワクしながら読んでいた。
あるページに手が止まった。
愛媛のおじいちゃんの家の話しが載っていたのだ。
それまで活字で見たことのない小さくて何もない町だ。
それなのに突然幽霊話しが、しかも古本に載っていたので驚いた。
港の桟橋で赤ちゃんの泣き声がするという話しだ。
小さな町には桟橋は1つしかないのできっとあの桟橋だ。
夏休み中は毎日朝と夜に私が釣りをしていたあの桟橋だ。
思い起こすと1人っきりで釣りをしていた事も多かった。
全く音がなくて、灯りは灯台とラジオ店の看板と幾つかの水銀燈しかなくて、かなり寂しい事を思い出した。
海で亡くなった赤ちゃんの泣き声がするというのだ。
怖いというのと切ないというのでとても嫌な気持ちになった。
家に帰って母親にその話しをした。
「そんな話しは知らん。」
一言で却下されたが本当になかった話しなのかは疑問だった。
夏休みになってそこへ行ったらおじいちゃんかひいじいちゃんに聞いてみようと思って忘れてしまった。
おじいちゃん達は亡くなり、波止場はすっかり埋め立てられてしまった。
母は覚えているはずもない。