ヤクザのOB会に参加していた子どもの頃

sawch

2025年02月01日 05:51



小学5年生の頃は魚釣りが大好きだった。
学校が休みの日は朝早くからあちこちの池や川に釣りに行った。
学校がある日は時間があまりないがひとが釣っているのを見に行った。
淀川から続く池に行くといつも大人が釣りをしていたのでそれを眺めたり大人と喋ったりした。

「釣れますか?」と話しかけるのが常だった。
「まあまあやな」と言いながら魚が入ったビクと呼ばれる網を水中から上げて見せてくれる人が多かった。
その池に行くといつも赤い帽子の人がいた。
時には数人が同じ赤い帽子を被って釣りをしていた。
私はその赤い帽子の人と仲良くなった。
「ここはな、深さ3メートルあるんや。どの深さで釣れるかを見つけるのが難しいねん。」
「その日によって違うん?」
「そうや、水温とか天気とか季節とか時間とかでちゃうねん。」
「へ〜難しいんやな」
そんなやり取りをして日が暮れそうになるまで眺めていた。
赤い帽子の人は何人かいたが誰が誰なのかはわからなかった。時には3人4人、時には1人だったがいつも同じ辺りで釣っていたので赤い帽子を見つけると喋りかけた。
どのおっちゃんも相手をしてくれた。
おっちゃんと言っても当時の父親よりもずっと年上で祖父くらいの年齢だったかも知れない。
「しょんべんしてくるから釣っててくれるか?」
そう言われてとても緊張した。
釣り道具屋で見る一本で1万円くらいする浮きと一本で10万円くらいする竿を使っていたからだ。
おっちゃん達は石を組んで足場を造りその上に椅子を置いて釣っていた。
そこに座るととても高くて池に突き出していた。
その上で高い竿と浮きを振り回すのは緊張した。
『底に引っ掛けて浮きを流したらどうしよう?』
『引っ掛かって竿が折れたら逃げるか?』
それでも高級な釣り道具に触れてみたかった。
子どもが扱うには竿は長くてあかんかった。
自分とおっちゃんへの言い訳としてその事を使った。
2度ほど浮きを池に投げてそれでおしまいにした。

いつもの様に学校が終わって池に行ったら赤い帽子のおっちゃん達はいなかった。
池の端っこには赤い帽子ではないおっちゃんがいたのでその人の釣りを見た。
「釣れますか?」
「あかんわ」
「あそこへ行ったらええんとちゃいますか?」
そう言って赤い帽子のおっちゃんが造った足場を指差した。
「あそこでは釣られへん。あれはあの人らが造ったやつやからな。」
「いてへんからええんとちゃうの?」
「あの人らはヤクザのOBやから。」
「そうなん?俺、いつも喋ってるで。」
「知ってるよ、あんたは子どもやからな。」
俺はヤクザのOB会に参加していたわけだ。
『だから高級な釣り竿を持ってるんや。竿を折らんで良かったわ。』

それからはなんとなくその池には行かなくなった。
『中学生になったら勧誘されるかも知れん』と思ったからだ。

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