2021年02月25日
2月24日
高校三年生の冬だった。
学校のストーブの周りに集まってけだるい時間を過ごしていた。
学校での主導権は下級生に譲ってしまっていた。
部活が終わり、生徒会が終わり、恋も終わり、友人関係も終わり、
まるで青春が終わったような寂しさを感じていた。
目の前に迫った受験や別れに怯える日々を過ごしていた。
いつも同じメンバーで集まっていたので会話が弾むことさえなかった。
「最近、酒田さん(仮名)が可愛くなったんちゃう?」
誰かがそう言った。
酒田さんはクラスの女子生徒で、真面目で大人しくあまり目立つ存在ではなかった。
私は話した記憶さえもない。特別美人ということもなく、意識をしたことの無い生徒だった。
「誰かに恋でもしてるんとちゃうん?」
しばらくしてから俺がそう言ったもののそれに突っ込んでくる奴はいなかった。
「誰やろ?」
そんな詮索に発展することもなく、また無言のけだるい時間が流れた。
2月になり、登校する機会がなくなったある日、学校からの連絡網が来た。
「酒田さんのお父さんが亡くなり葬儀に参列するので14日に集まるように、」
バレンタインデーだったがワクワクするような予定もなく、参列する予定を受け入れた。
酒田さんの家は住宅街にある小さなお好み焼き屋をやっていた。
食べに行ったことは無かったが家の場所は知っていた。
当日はクラスのほとんどが集まったが、同窓会の様な盛り上がりはもちろん無かった。
我が事の様な悲しさもまた感じなく、そのことに違和感を覚えた。
あれから長い時間がたったが参列したときのことはよく覚えている。
周りの人にしきりに頭を下げるお母さん、遺影を持ってうなだれる酒田さん、泣きじゃくる小学生の弟の3人の姿だ。
その当時は父親が亡くなるなんて考えられなかったのだが、遺された家族の姿を見て何とも言えない暗くて辛い気持ちになった。
同級生との会話をいくらもしないまま式が終わると家に帰った。
その10日後の2月24日が高校の卒業式だった。
就職が決まった奴、進学が決まった奴、これから受験の奴、この日にクラスメイトの進路を確認しあうこともあった。
大きな声での会話や笑い声に満ち溢れて久々に楽しい気分になった。
友達同士で写真を撮りあった。何枚も撮った。
あまり喋ったことが無いような奴とも撮った。
「一生会わない奴がいっぱいいるんだろうな」
そんなことを考えながらなので沢山の同級生と写真を撮った。
「吉田君、写真撮ってくれる?」
話したことさえないような大人しい女子生徒が二人やってきた。
「ええよ。」
特になんてこともなくそう答えた。
彼女らは私を促して教室から少し離れたところに行った。
そこには酒田さんがいた。
みんなで撮るのではなくて酒田さんと二人での写真だった。
微妙に距離を置いてポケットに手を突っ込んでぎこちなく微笑む俺がいる。
ニコニコした笑顔の酒田さんがいる。
何十年も経った今でも家のどこかにそんな写真はあるはずだ。
「これ、もらって。」
酒田さんから何かを渡された。
家に帰ってから開けてみるとチョコレートだった。
カードが添えてあった。
『10日遅れのチョコレートですが食べて下さい。』
お父さんが亡くなるってどんなにつらいんだろう。
そんなときも俺の事を考えていてくれたんだろうな。
そんな風に思うと胸が熱くなった。
恋に発展することは無かった。
お礼の電話をして一度だけ京都の嵐山に一緒に行った。
高校の卒業式が2月24日でその日にこういう出来事があったことをよく覚えている。
学校のストーブの周りに集まってけだるい時間を過ごしていた。
学校での主導権は下級生に譲ってしまっていた。
部活が終わり、生徒会が終わり、恋も終わり、友人関係も終わり、
まるで青春が終わったような寂しさを感じていた。
目の前に迫った受験や別れに怯える日々を過ごしていた。
いつも同じメンバーで集まっていたので会話が弾むことさえなかった。
「最近、酒田さん(仮名)が可愛くなったんちゃう?」
誰かがそう言った。
酒田さんはクラスの女子生徒で、真面目で大人しくあまり目立つ存在ではなかった。
私は話した記憶さえもない。特別美人ということもなく、意識をしたことの無い生徒だった。
「誰かに恋でもしてるんとちゃうん?」
しばらくしてから俺がそう言ったもののそれに突っ込んでくる奴はいなかった。
「誰やろ?」
そんな詮索に発展することもなく、また無言のけだるい時間が流れた。
2月になり、登校する機会がなくなったある日、学校からの連絡網が来た。
「酒田さんのお父さんが亡くなり葬儀に参列するので14日に集まるように、」
バレンタインデーだったがワクワクするような予定もなく、参列する予定を受け入れた。
酒田さんの家は住宅街にある小さなお好み焼き屋をやっていた。
食べに行ったことは無かったが家の場所は知っていた。
当日はクラスのほとんどが集まったが、同窓会の様な盛り上がりはもちろん無かった。
我が事の様な悲しさもまた感じなく、そのことに違和感を覚えた。
あれから長い時間がたったが参列したときのことはよく覚えている。
周りの人にしきりに頭を下げるお母さん、遺影を持ってうなだれる酒田さん、泣きじゃくる小学生の弟の3人の姿だ。
その当時は父親が亡くなるなんて考えられなかったのだが、遺された家族の姿を見て何とも言えない暗くて辛い気持ちになった。
同級生との会話をいくらもしないまま式が終わると家に帰った。
その10日後の2月24日が高校の卒業式だった。
就職が決まった奴、進学が決まった奴、これから受験の奴、この日にクラスメイトの進路を確認しあうこともあった。
大きな声での会話や笑い声に満ち溢れて久々に楽しい気分になった。
友達同士で写真を撮りあった。何枚も撮った。
あまり喋ったことが無いような奴とも撮った。
「一生会わない奴がいっぱいいるんだろうな」
そんなことを考えながらなので沢山の同級生と写真を撮った。
「吉田君、写真撮ってくれる?」
話したことさえないような大人しい女子生徒が二人やってきた。
「ええよ。」
特になんてこともなくそう答えた。
彼女らは私を促して教室から少し離れたところに行った。
そこには酒田さんがいた。
みんなで撮るのではなくて酒田さんと二人での写真だった。
微妙に距離を置いてポケットに手を突っ込んでぎこちなく微笑む俺がいる。
ニコニコした笑顔の酒田さんがいる。
何十年も経った今でも家のどこかにそんな写真はあるはずだ。
「これ、もらって。」
酒田さんから何かを渡された。
家に帰ってから開けてみるとチョコレートだった。
カードが添えてあった。
『10日遅れのチョコレートですが食べて下さい。』
お父さんが亡くなるってどんなにつらいんだろう。
そんなときも俺の事を考えていてくれたんだろうな。
そんな風に思うと胸が熱くなった。
恋に発展することは無かった。
お礼の電話をして一度だけ京都の嵐山に一緒に行った。
高校の卒業式が2月24日でその日にこういう出来事があったことをよく覚えている。
Posted by sawch at 08:52│Comments(0)
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