2025年04月07日
貧しい同級生宅に朝刊を配る

大阪に住んでいた中学2年生で朝刊配達を始めた。
朝刊とは言えまだ暗い時間で配り終えた。
大阪とは言え郊外の田舎だった。
祖父母の家もある見知った地域だったが暗い時間はどこか恐ろしい雰囲気がした。
古い農家は大きな壁や塀、堀があり、道は細く入り組んで舗装は良くない。
私が苦手な家があったが、それが同級生の家だ。
同級生とは言え、保育園の頃の同級生で、小中は違う校区だったので知人ではない。
保育園の印象で、その同級生は大人しく、小柄で色白の痩せた男の子だった。
新聞は家のポストに入れるのが普通だった。
何軒かポストの無い家があったが、扉の隙間とか、玄関横の窓の鉄格子に挟むとか、玄関の箱の上に置くとか、前任者からの指示通りにやっていた。
「扉を開けて家の中に置く」というのが前任者から聞いたその家の配り方だった。
暗闇の中で扉を開けると明らかな人の気配がした。
ホタル電球の下には5人ほどの人間が寝ている。
玄関の薄い扉を開けるだけでその5人が寝ている部屋なのだ。
保育園の同級生、妹、両親、おじいちゃんもいる。
これで5人だがもしかするとおばあちゃんもいたかも知れない。
それだけの人が玄関を入ったすぐの部屋に寝ている。
もしかするとその家にはその部屋しかないのかも知れない。
扉を開けた時の人の匂いや熱を感じるのがイヤだった。
普段はそうしたら匂いや熱など気にもならないが未明の時間に小屋の様な小さな家で、寝ている人達からのものだと思うと不快だった。
寝息やいびきが聞こえる事もあった。
扉を開けたらそれらが急にしなくなる事もあった。
扉を開けて新聞を置くことにも注意を払った。
めんどくさいと思った。
朝刊配達は機械的にしたかった。
ポストや扉の隙間といった温もりの無い所にただ配るだけなので心の準備をしたり、気持ちを高めたりする必要はなかった。
その同級生の家だけが人を感じる家なので何か構えてから扉を開けないといけなかったのだ。たったそれだけのことがとても憂鬱だった。
祖母にその家の事を尋ねた事がある。
隣の家の四男だか五男だかが住むために建てたもので空いたから貸しているとの事だった。
住んでいる人の素性は知らないが、地元の人間ではなくて近所付き合いは無いらしい。
Posted by sawch at 08:09│Comments(0)
│昔の話