2024年04月22日
ありえない夫婦

家庭教師の生徒だった田中君(仮称)はとてもとても暑がりだった。
寒さに鈍感とも言えるくらいだった。
冬に彼の家に行く時は一番暖かい服を着ていったがそれでも寒かった。
吐く息は白くて手はポケットから出せなかった。
ダウンコートに覆われていない膝から下には冷たい風が当たっている様に思えた。
彼は薄手のトレーナー一枚だった。
古い家の北側にある彼の部屋は畳敷きでカーペットは無かった。
「食事とかで台所に行く時は暑くない?」と私が聞くと
「気持ち悪くなるくらい暑いです」
と答えた。
田中君のお母さんは私の完全防備の服装を見ていつも「すみません、寒いでしょう」ととても申し訳無さそうにしていた。
「勉強をする人に合わせるしかないので我慢させて熱くして貰わなくても良いですよ。こっちが我慢しますから大丈夫です。」と答えていた。
田中君の後は近くの三浦さん(仮称)の家に行くと決まっていた。
三浦さんの家は普通の洋風の家で特に寒い家ではなかった。
三浦さんはそんな家の中でもダウンジャケットを着ていた。毛糸の帽子をかぶりフワフワのスリッパを履いていた。
彼女の部屋には石油ファンヒーターと電気ストーブがあってどちらも彼女の方を向いていた。
それにも関わらず「寒い、寒い、」と言っていた。
私は着てきたダウンコートを車に置いてセーターだけで三浦さんの家に入るが彼女の部屋に入ると暑くて気持ち悪くなりそうだった。
田中君から三浦さんへの僅かな時間の間の温度の差は大きかった。
寒い方が先で暑いほうが後だったのが僅かな救いかも知れない。
『この2人が結婚して夫婦になったらどうなる。』
段々そう考える様になった。
2人は面識が無いようで私のこの提案に乗ってくることはなかった。
既に30代になっている2人だが夫婦になったという噂は聞いていない。
私の妄想は実現されていない。
Posted by sawch at 08:15│Comments(0)
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