2023年12月13日
塾のトイレに棲む赤ちゃん

塾の休憩時間に2人の生徒が私のそばにやってきて言った。
「トイレに誰かが入っていて全然出て来ないんです。」
「そんな小学生みたいな事を言ってなくて待ってれば良いじゃん。」
私はそう言いながらもふとトイレを見た。
入り口には2つのスリッパがトイレの方を向いて並んでいる。
トイレを覗くと誰もいない。
幾つかの小便器と個室が1つだけのトイレだ。
この辺りで私は多少の混乱をして頭が回らなくなった。
『なんで誰もおらんのやろう?』
教室の中を見れば全員が着席している。
混乱が大きくなり2人の生徒を連れてトイレに入った。
恐る恐る個室に近づくとカギの所が赤色になっている。
『やはり中に誰かいる。』
『2人か?1人か?』
トイレをノックした。
反応がない。
勇気を出して声をかけた。
「すみません、誰かいますか?」
返事がない。
マイナスのドライバーを塾から持って来てトイレのドアを開けようとした。
上手く差し込む事が出来ない。
右手にドライバーを持ったまま左手でドアの上を握って身体を固定しようとした。
なかなか差し込めない。
その時だ。
左手に何か柔らかいものが触れた。
ドキッとした。
赤ちゃんの様な小さな手が私の手の上に乗っている。
身体が硬直して動かなくなって声さえも出なかった。
『腰を抜かすってこんな感じなのか。』
何故か考えたのはそれだった。
2人の生徒は私の右手を見つめていて左手の上の赤ちゃんの手には気づいていない。
「ガシャ〜ン」
次の瞬間、ドアが空いて私の身体はトイレの中になだれ込んでしまった。
硬くなった私の身体を誰かが押し込んだようにさえ思えた。
そこには便器が1つあるだけだった。
他には誰もいなかった。
私の後ろにいたはずの2人の生徒もいなかった。
『そうだ、さっき確認したら教室の生徒はみんないたよな。じゃあの2人の生徒は誰だったのだろう?』
身体はまた硬くなりトイレに閉じ込められた様になってしまった。
少しでも早く逃げ出したいのに誰もいないトイレの個室に半分身体を入れて左手はドアの上に置いたままで固まってしまった。
ここで私の奇妙な夢から覚めた。
左手の上に何かが乗っている様な感覚が残っていてぞっとした。