2025年01月31日
命の危険を感じた受験

息子の1人は富山の高校を受験する事になった。
赤穂中から他に受ける生徒はおらず準備から送迎まで全て私がやった。
前泊して受ける予定だったが前日は大雪警報が出ていた。高速道路と公共交通機関は止まる様だ。
『どうすんねん?』
147号線を白馬から小谷を抜けて日本海に出るか夏場にはよく通る木曽から安房トンネルを抜けて行くかのどっちかだ。どっちも通行止めになればどうしようもない。
安房トンネルを抜ける事にした。
権兵衛トンネルから木曽を抜けるが途中の境峠は標高が 1480メートルもある。1480って登山じゃん。峠の辺りは1メートル以上は積もっていたが降ってはなくて除雪されていた。急な下り坂は怖かったが何とか通り抜けて、再び上って安房トンネルを抜けた。奥飛騨温泉の辺りはずっと下り坂だが凍りではなくて雪なので意外と楽に通れた。上り下りを繰り返して広い国道41号線に出た。
『もう大丈夫』と思った。
しかしその辺りから横殴りの雪がドンドン降ってきた。激しい勢いだ。ホワイトアウトというやつだろう。
全てがボヤーっとした白で何も見えない。
風も強い。
広いはずの国道が自分が通る幅しかない。
路肩も脇道もチェーンを付ける為のスペースも何もない。
まるで白い溝の中を走っている様だ。
通る車はほとんどない。
いつもあおってくる大型トラックも追いかけて来ない。
たまに来る対向車は真正面から走ってくる。ぼんやりしたヘッドライトを見ながら『あのライトの少し左を通ろう』とするしかない。きっと相手も同じ様に考えているのだろう。止まる様なスピードで通り過ぎる。相手の運転手の顔さえ見えない。道路のセンターラインを挟んで通り過ぎているのか端っこなのかもわからない。
雪はさらに激しくなる。カーナビはあるがスマホはまだ持ってなかった。
情報のない中で通行止めになったら終わりなので行くしかない。そもそも戻れと言われても戻れない。下るしかない。
ワイパーに雪が凍りついて前がさらに見えなくなってきた。それでも車を止めるのは怖かった。
前がほとんど見えない道路に止めるのは怖い。
トンネルの中だけが見通しが良いがそこで止まって雪を落とすのも怖いのでやめた。
ビビりながら走っていると突然雪の壁に突っ込んでしまった。
スリップではなくて緩やかなカーブを直線だと思って突っ込んだ。
ボンネットが短い軽自動車だったので完全に雪の中に入った。ドアを開ける事さえも出来なくて恐怖を感じた。
『俺は死んでも息子は送り届けなくてはいけない。』
『でも俺が死んで息子を届けるってそんな状況はあるか?』一瞬で訳のわからない事を思うと開き直ったのか気合いが入った。
ギアをバックな入れると無事に下がることが出来た。
後ろは何も見えないのでバックをするのは恐怖だった。
「よっしゃ」気合いを入れた。
下がったついでに車を下りてワイパーに凍りついたものを落とした…幅が2メートルくらいになった国道のど真ん中でだ。突然前か後ろから車が来るかも知れない。
その時をピークとして徐々に雪は穏やかになった。
富山市内に入ると風も雪も止んでいて除雪がされていた。
生きてたどり着くことが出来て嬉しかった。
「絶対に受かれよ。もう冬には来たくないからな。」
息子にそう言った。
翌日の受験会場では保護者控え室で待っていた。
隣りにいた女性は地元の人だそうだが昨日の悪天候を41号線で長野県から来たと聞いて驚いていた。『41号線は通行止めだと思っていた。』そうだ。
20人の定員に50人が受験した。受験資格に内申点の下限があり息子はギリギリだったので受験生の中では一番下だという事だ。
面接で受からなければ筆記試験は無理だと思った。
筆記試験の過去問題を見たが息子が解けるレベルではない難しさだった。
その為、面接練習を徹底的にやった。
志望動機は2分以上準備した。普通は30秒程度だろう。
小学生の頃の思い出から将来の世界進出の夢までをストーリーにした。
何回も練習をして俳優の様に気持ちを込める様にした。
他の質問の準備も完璧だった。
一か八かの作戦だ。
幸い息子は合格してくれた。
今日は地元の伊那西高校の受験だ。
きっと皆さん緊張しているだろう。
一生の思い出になる。
悔いなく臨んで欲しい。
Posted by sawch at 06:38│Comments(0)
│昔の話