2023年05月28日
面接

「新人を採るかどうかは一緒に働く吉田君が決めなさい。」
30年前の社長室でそう言われた。
その新人はドイツ語学科の学生で人事課面接、部長面接、社長面接を終えていた。
もし採用となれば私と一緒にドイツで働く事になる。
「車を貸してください。」
社長に許可を頂いて彼を社外へ連れ出した。
初対面の先輩である私に対して車の中で彼は大人しかった。
車は街を抜けて海が見える景色のよい丘の上に着いた。
彼はかなりリラックスした様子だった。
彼は2年浪人していて私とは同い年だった。
その事がわかるとタメ口とまではいかないが最初の緊張した喋り口ではなくなった。
ドイツ語が達者な事を鼻にかけている感じがあった。
『こいつとは一緒に働きたくない。』
そう思った。
社長にその理由を明確に語らなくてはいけないのでそのネタを見つけようと思った。
「面接ではどんな事を聞かれたんですか?」
「彼女はいるのか?」
と聞かれました。
「彼女ってどこまでが彼女なんですか?仲の良い友達ならいます。」
と答えました。
そう言う彼に思った。
『こいつはアホか?』
その新人候補に彼女がいるかどうか等のプライベートな事を会社が興味があるのではない。
「彼女がいるのならその彼女は貴方の海外勤務に賛成してくれるでしょうか?」
そういう展開になる事位が予想出来ないのか?
これは良いネタを掴んだ。
これで充分だ。
海を見下ろす丘の上で彼は雄弁にドイツ語の能力を語った。
これもネタに使える。
仕事をするために行くので語学留学に行くのではないが、そこを理解できていない。
彼を駅まで送った後で社長室へ戻り貿易部長もいる前で二つのネタを披露してその新人候補は採用すべきではないと話した。
「吉田君、凄いね。」
何故か私が褒められた。
これは新人候補の面接ではなくて私の面接だったのか?